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    正文はその傍に近づきながら、他の用事で来たついでのやうに云つた。

    「さうですよ、ですが、何年ぶりでせう。これがもつと他の所だつたらおたがひ気がつかなかつたかもしれませんよ」

    と訊くと、遊び友達と河へ行つたといふ返事であつた。

    「これですか――?」

    さう云ひながら、盛子はゆつくりと喰べていた物がまだ口の中に残つているような無邪気な顔をした。

    云ひながら、腹帯の中からまるで金入れとは思へない位に大きな蟇口をとり出すと、十円札を何枚かつかんでいた。そして、ろくに返事も聞かないで房一に押しつけた。

    彼が冠をとると、円味のある顎肉には紐の痕が紅く残つていた。

    「ふん」

    房一は怒つたやうな嘲あざけるやうな調子であつた。その顔は何故か黒ずんで見えた。そして、目がぎらついていた。

    「うん、もうさつき帰つたよ」

    「誰かと思つたら――」

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